なぜ、17歳から始めてプロサッカー選手になれたのか?(7)

檜垣裕志

なぜ笑う?

ブラジル留学一年目のとき、同じ歳のブラジル人選手がプロに昇格を果たしました。

その選手がプロで練習しているのを見に行った時のことですが、日本人留学生たちが彼を見て笑っていました。

その練習とは、逆足のセンタリングの練習でしたが、彼は、何度も何度も練習させられていました。

まともにキックができなかったからです。

日本人留学生たちは、笑いながら「俺の逆足の方が上手いよ」と言っていましたが、僕はそれを聞いてすごく違和感を感じていました。

留学一年目で、気づかなかったこと

その違和感とは、日本人選手は日本で普段から両足練習をさせられていましたから、自分たちは両足が上手く出来ていると思っていることです。

もし、自分たちがプロに昇格した彼より両足の技術があるのであれば、日本人留学生たちはプロの技術を持っていると言えるでしょう。

しかし、本当に彼以上の両足や逆足の技術を持っているのでしょうか?

僕は違うと思いました。

自分には技術がない。

そして、何かが間違っていると。

プロになれる者とは

あんなに逆足が上手くできない彼が、なぜプロサッカー選手になれたのでしょうか…

まず、プロになれる選手は、

  • ボールを持てる技術
  • ボールを取られない技術

を持っています。

当然、プロに昇格した彼もその技術を持っていました。

彼のことを笑った日本人留学生たちには、その技術はありませんでした。

それが大きな違いです。

この選手から学んだこと

僕の中で、一緒にプレーした中でのNo.1の選手は、交通事故で亡くなった伝説の選手、デネルです。

ユース時代は、当時ブラジル最強のポルトゲーザの練習生として過ごし、すべての選手からその凄さを体感しました、

が、中でもデネルは別格でした。

初めて会ったときの彼の何気ないボールタッチを見て、衝撃が走りました。

後にも先にも、その衝撃的な感覚はありません。

全員凄い選手ばかりの中で、デネルだけは次元の違うものを持っていました。

デネルの右足(1)

彼のワンタッチから感じた衝撃でしたが、未熟な当時の自分にはその意味がわかりませんでした。

しかし、彼と接するうちに、日本では考えられないことを目の当たりにしました。

日本でもよくやっているセンタリングからのシュート練習で、デネルは左サイドにいました。

日本では、右利きも左利きも関係なく

  • 両サイドでのプレー
  • 両足でのプレー

をさせられます。

その感覚で見れば、右利きのデネルが左サイドにいても不思議ではありません。

左サイドのデネルにボールが来て、さぁ今から左足でセンタリングを上げるぞと思ったとき、彼は右足のアウトでターンして右足でセンタリングを上げたのです。

デネルの右足(2)

日本では、絶対に見られないようなプレーでした。

日本だと、左サイドからのセンタリング練習で、フリーの状態であれば、必ず左足でセンタリングをさせられます。

わざわざ利き足にボール持ちかえて蹴ろうものなら、「そんなことしないで早く蹴れ」と言われるでしょう。

利き足の右足に持ちかえて蹴ったデネルの技術は、それは素晴らしいものでした。

僕自身、「利き足」を強く感じた瞬間でした。

デネルの右足(3)

その後のデネルは、

  • ユースの大会でMVP
  • プロに昇格してから即レギュラー
  • ブラジル代表選出

などの活躍をして、さらに遠い存在となりました。

デネルの右足からのプレーは、本当にスーパーでした。

サントスとの試合では、マラドーナの60メートルドリブルを彷彿させるスーパープレーを見せてくれたり、彼から「利き足の重要性」を強く学びました。

つづく

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この記事を書いた人檜垣 裕志檜垣 裕志
1970年生まれ 石川県出身。ブラジル選手権一部リーグに所属するチーム。日本国籍者としてプロ契約した2人目のサッカー選手。ブラジル選手権一部リーグのポルトゲーザなどで活躍。当時、ゼ・ロベルト(2006 W杯ブラジル代表)とともにプレーをした経験もある。
FIFA(国際サッカー連盟)公認コーチライセンス、
CBF(ブラジルサッカー協会)公認コーチライセンスを保有
圧倒的なテクニックと確立された指導法には定評がある。現在、明光サッカースクール、東京スポーツレクリエーション専門学校などで、子どもたちにサッカーを指導している。
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